中絶薬RU486とは

  ミフェプリストン (mifepristone,米非司酉同片) は、抗グルココルチコイド作用と抗アンドロゲン作用も持つ薬物。RU486と表記されることもある、通常、ミソプロストール(米索前列醇片)との併用により使用される。妊娠7週(49日;受精からは5週間相当)以内の初期であれば胎児は膣から血塊となって排出され中絶される。妊娠10週までの使用が適応とされている国もある。従来の子宮内掻破術のような重大な合併症が少なく、非常に安価で簡便かつ安全であり、中絶成功率は95%以上とされる。数パーセントの症例で完全な中絶に至らず不全流産や稽留流産となることがある。主な合併症としては感染症や出血があるが、頻度は自然流産と同程度とされる。出血が止まらない場合は子宮内掻破術等の追加手術が必要になる。また子宮外妊娠など異常妊娠での使用は禁忌であるため、医師による正確な事前診断および投与後の経過観察が必須とされる。認可済みの国々においても、個人の裁量で内服することは認められておらず医師の管理下での投薬が原則となっているが、オランダやフランスではインターネットを使った遠隔診断による供給も開始されている。


中絶薬RU486の薬効機序

  ミフェプリストンは高容量 (600mg) では、子宮粘膜の黄体ホルモン受容体に対して強い親和性(黄体ホルモンの5倍)を持ち、黄体ホルモンが受容体に結合するのを阻害する。これによって黄体ホルモンの効果発現がブロックされ、子宮粘膜が非妊娠状態にリセットする。やがて月経が起こり胎児は血塊となって排出される。腟からの出血は14日以内に止まることが多い。2-3%の人に遷延性出血があり追加で子宮内膜掻破術の実施が必要となるが、その頻度は自然流産と同程度とされる。イギリスとスウェーデンのみ9週まで認可されておりこの場合は医師がラミナリアなどによって子宮頚管拡張などの手技を行う。ミフェプリストン自体にも子宮頚管拡張効果がある。小容量 (10mg) では卵巣からの排卵を抑制する効果があり、それによって緊急避妊薬としても使用されている。ミフェプリストンは神経保護作用もあり、ネズミの海馬神経を使用した実験では人為的に加えられた酸化ストレスに対して神経細胞のアポトーシスを予防する効果が認められている。


中絶薬RU486の内服方法

  妊娠7週未満での中絶薬RU486内服方法は下記の通りであり、外来で実施される。(7週以降は手順が変わってくる)

  1:まずミフェプリストンを600mg内服する。

  2:36-48時間以内にミソプロストールを2錠内服する。

  3:数日後胎児が血塊となって膣より排出される。出血が自然に止まれば受診の必要はない。

  4:約2週間後に再び医師を訪ね、子宮内に何も残っていないことを確認する。2週間後の受診は義務化されていないが、強く推奨されている。


既存の手技(掻爬術)との優位性

  中絶薬RU486が開発される以前は、掻爬術に代表される伝統的な機械的・物理的な中絶方法が妊娠初期であっても実施されていた。これらの中絶手技は基本的に「手術」という形態となり麻酔(吸入ないし静脈)が必要となる。またラミナリア桿等による子宮頚管の拡張が必要であり、そのために頸管裂傷などのリスクが存在する。掻破術自体にも子宮穿孔などの危険が存在し、偶発症の40%を重篤な合併症である「子宮穿孔」が占めるとされる。また術後合併症としてアッシャーマン症候群などがあり、中絶後に不妊症になることもある。日本では、妊娠8週の中絶の処置中に子宮を貫通してしまい小腸を掴みだしてしまい、小腸穿孔、大腸損傷、子宮穿孔を合併し、人工肛門増設が必要になった症例や、妊娠6週での処置中に心肺停止となりそのまま蘇生術に反応せず死亡した症例も報告されている。またミフェプリストンに挙げられている出血や感染症のリスクは、これらの既存の中絶手技についても存在し、より高頻度である。費用面でも大きな差が存在する。極度の肥満の女性には掻爬術の実施が困難という適応上の難点もある。


中絶薬RU486の副作用と有害事象

  1:嘔気や倦怠感、下痢、頭痛、めまい、腰背痛。

  2:膣からの出血 - 胎児が血塊となって排出されるので、ほぼ全例に月経と同じような性器出血や下腹痛がある。出血は9-16日間でほぼ止血するとされているが、8%の女性で30日以上の遷延出血が認められ、0.1%程度で輸血が必要であった。ただし、出血の頻度とリスクは格段高い訳ではなく、自然流産と同程度の発生頻度とされる。

  3:感染症 - Clostridium sordelliiなどによる逆行性の感染症は各国とも数名の報告に留まっている。

  4:敗血症 - FDAは4名の敗血症による死亡例を2005年に報告し、2011年にはミフェプリストンを使用した152万人の女性のうち6人が敗血症で死亡している。

  5:その他のインジデント 152万人中、6人にが薬物乱用や殺人などの理由により命を落とした。612人が何らかの理由で一時入院し、339人に輸血が実施された。全てを合計すると、ミフェプリストンを使用した女性の0.15%(2207人)になんらかの有害事象が発生したとされる。


中絶薬RU486の歴史

  ミフェプリストンは、1982年にフランスのルセル社が合成した。当初は抗グルココルチコイド作用を持つ薬剤としてドラッグデザインされた。パリ大医学部のエティエンヌ=エミール・ボリューが抗黄体ホルモン作用を発見した。最初の臨床試験は1981年10月にスイスのジュネーヴ大学で実施され、11人の妊婦に対して高い妊娠中絶効果が確認され1982年に発表された。その後ルセル社は世界的な20000人女性に対しての臨床試験が実施された。1989年、開発者はアメリカのラスカー賞を受賞した。米食品医薬品局 (FDA) 諮問委員会は「中絶ピル『RU486』について安全であり、妊娠初期の中絶手段として適切」であると勧告し、WHOも「(従来の)中絶手術と比べ、はるかに安全」とした。1999年までに全世界で50万人以上の女性に使用され、2015年時点で認可されている国は60ヵ国である。